サリドマイド癌治療・癌との共生を探る
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サリドマイド
 癌の増殖には栄養を供給する血管増殖が欠かせません。サリドマイドは血管新生抑制作用により、癌の進展を抑えます。その強い抑制作用のため胎児の血管が作られず多数のサリドマイド犠牲者を出しました。
 サリドマイドは1950年代サリドマイド児を生み出すという悲劇的な事件を引き起こした悪名高い薬品です。これは人類が使用方法を間違えたために起こした最大の悲劇です。 もし人類が間違って使用していなかったら、サリドマイドは独創的で新たな可能性をふくむ医薬品になっていたでしょう。サリドマイドの作用は血管新生抑制作用と抗TNF-α作用にあります。 遺伝子であるメッセンジャーRNAが血管新生を促進する蛋白質(VEGF,bFGF)の合成を指令するわけですが、この部分を阻害するといわれています。胎児の血管が十分に作られなかったために、悲劇が起こったわけです。
 癌の増殖ならびに転移には、血管の新生なくしては起こり得ません。この血管新生に関与する蛋白質が上に述べたVEGF,bFGFなのです。これらの物質の生成を抑えることにより癌の進展を抑え、癌を休眠状態に持ち込むことができます。 現在固形癌にたいして臨床試験が進められています。効果の大きい順にあげてみますと肺腺癌、大腸癌、膵癌、胃癌を挙げることができます。 胆嚢癌、胆管癌、卵巣癌、前立腺癌、悪性中皮腫にも効果的です。腎癌、乳癌、胃癌にもかなり効果的です。 更に従来治療法がなくて治療に困難をきわめていた多発性骨髄腫にも、有効性が認められています。また血管新生を起こし種々の症状を引き起こす良性疾患にも有効性が認められています。
 現在のところ米国では癩の皮膚病変にFDAより認可がおりています。これはイスラエルのお医者さんが夜間、癩のために起こる皮膚の痛みのため眠られない患者さんにサリドマイドを処方したところ、 完全に痛みと皮膚病変が治ってしまったことに始まります。
 副作用としては先にも述べたように強い催奇性があり数10mgの服用でも妊娠初期では奇形を引き起こします。 更に不可逆の末梢神経炎を起こす可能性があります。末梢神経炎は遺伝的傾向があり、発生頻度は5〜25%です。 その他、傾眠傾向、便秘があり、便秘はかなり高い確率で起こります。致死量(LD50)は高く、1回服用量数gでもとくに大きな問題は起こらないと言う。 現在のところ米国ではSTEPSという教育医師、患者向け教育プログラムを経て使用されています。
COX-2阻害剤・セレブレックス
 サイクロオキシゲナーゼ(COX)は難しくなりますがアラキドン酸からプロスタグランディンを作り出す酵素でCOX-1,COX-2の2種類が存在します。COX-1は常時体内に存在し、体の恒常性を保つ働きをしています。 COX-2は炎症細胞、癌細胞内に存在し、病的状態で急速に発現します。癌の場合COX-2はアポトーシス(細胞自然死)阻害、転移能力の増強、血管新生の促進作用を示します。COX-2活性が高いほど予後不良といえます。
Vanderbilt大学のRaymond N. DuBoisはCOX-2阻害剤は肺癌の成長を著しく阻害することを動物実験で示し、2000年に発表しました。この実験より大腸癌、膵癌、乳癌、前立腺癌にも有効であるということが判明しました。 COX-2はいくつかのメカニズムによって腫瘍増殖を起こしますが、そのうちの一つが血管新生を促すことにあります。またVEGFとCOX-2は密接な関係を有し、COX-2阻害剤で治療経過中腫瘍によって産生されるVEGFも低下するようです。
 COX-2阻害剤としてセレコキシブ(セレブレックス)、ロフェコキシブ(バイオックス)、メロキシカム(モービック)がありますがバイオックスは心臓障害で発売中止となりました。 現在のところ抗癌剤としてCOX-2阻害剤を使用する場合、セレコキシブの選択が妥当と考えます。
ネクサバール
 癌細胞増殖では細胞外刺激が細胞内に伝わり活性をもった物質が産生され、その物質の作用により癌細胞の増殖が促進されます。 癌増殖には各種の分子が関与する分子伝達路(molecularpathway)が存在します。 その中にはシグナル伝達系・細胞周期・アポトーシス制御系、血管新生・転移機転などがあります。 シグナル伝達系で最も主要なものがイレッサが阻害することで有名なEGFで始まるpathwayです。 EGFR/Ras/Raf/MEK/ERKと刺激は伝達されます。癌の約30%にこの系は見られ、膵癌・大腸癌では更に高率に発現しています。 ネクサバールのホームページには「ネクサバールは、初の経口マルチキナーゼ阻害剤で、腫瘍細胞および腫瘍の新生血管の両方において、 セリン/スレオニンキナーゼそして受容体チロシンキナーゼを標的とする薬剤です。 非臨床試験では、癌の増殖に係る2つの重要な要因、すなわち腫瘍細胞増殖と腫瘍血管新生に関与することが知られるキナーゼ群を標的としていることが示されました。 これら標的となるキナーゼとして、RAFキナーゼ、VEGFR-2、VEGFR-3、PDGFR-β、c-KIT、FLT−3などが挙げられます。
 ネクサバールは主にRaf kinaseとVEGFR( vascular endothelial growth factor receptor) 阻害剤であり、 受容体のリン酸化と MAPK-mediated signalingを阻害する。」とあります。 腎癌を初めとして肝癌・大腸癌・乳癌・膵癌・卵巣癌・悪性黒色腫等の治療に効果的と考えます。 EGFR/Ras/Raf/MEK/ERK阻害は用量依存性(90 to 4000 nmol/L)といわれていますが 、VEGFR-2, VEGFR-3, PDGFR-alpha, Flt-3 では20 - 100 nmol/Lの濃度で阻害するということです。 ネクサバールを他の分子標的薬と併用することにより相乗効果がえられます[Mol CancerTher 2006;5(9):2378-87]。
 上手に使用することにより、従来にない腫瘍縮小効果がえられます。 卵巣癌膣再発、肺転移の患者さんでは、膣からの出血の著しい減少、肺転移巣の縮小が見られています。 使用量は他薬剤との併用により通常使用量よりかなり減少させることができています。 1ヶ月70-80万円かかる薬剤料金を半減させることも可能となっています。
デパケン
 バルプロン酸はヒストン脱アセチル酵素を阻害する作用を持っています。試験管内の実験でバルプロン酸は癌細胞の分化やアポトーシスを促進するという実験結果があり、動物実験では腫瘍の増殖と転移を阻害します。
 ヒストン脱アセチル酵素は転写調節と癌発生に大きな作用をしています。バルプロン酸は依存性転写抑制を軽減させます。その結果癌細胞の分化を促進します。 バルプロン酸にはその他の作用として片頭痛に効果がありますが、催奇性、稀に肝障害がみられます。抗てんかん作用を示す濃度0.3〜1.0 mM(服薬量 20〜30 mg/kg)で強力なヒストン脱アセチル酵素阻害を示します。
アバスチン(ベバシツマブ)
■アバスチンは組換え型抗VEGFモノクローナル抗体
■転移性結腸直腸癌に対する第一選択薬としてFDAが承認
■イリノテカン 、5-FU、ロイコボリンによる化学療法(IFL)との併用で、生存が約5カ月間延長(20.3カ月対15.6カ月)

■副作用(筆者は非常に危険な副作用と考えます。)
■1)損傷治癒障害や胃腸穿孔の重大な副作用あり。2%の患者に胃腸穿孔がおこる。
■2)出血 非小細胞性肺癌で抗癌剤とアバスチンと併用した場合、扁平上皮癌では31%に、腺癌では4%に重篤な喀血が見られる。抗癌剤のみの治療では1例もそのような事例はない。

■癌の増殖ならびに転移は血管新生と密接な関係があります。直径3-4mmの腫瘍は塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGFといい血管新生を促す蛋白質)とインターロイキン-8(IL-8血管新生を促進する物質)の発現が直径10mm以上の腫瘍より強く、 直径10mm以上の腫瘍ではVEGFの発現が強いといわれています。免疫学的染色では、血管新生因子の存在部位は異なり、腫瘍の辺縁で細胞分裂が盛んな部位にbFGFとIL-8の発現が高く、VEGFは腫瘍の中心部に発現が高いと報告されています。 in vitroの研究では腫瘍細胞が疎である場合、 bFGFとIL-8発現が高く、正常細胞と接して密になってもこの bFGFとIL-8の発現は減少しません。VEGF発現は腫瘍細胞が密であると発現が高く、正常・異常細胞との接触とは関係がありません。

■純粋に抗VEGF作用のみを期待する病変に使用するなら、危険を冒しアバスチンを使用することに意味があると思います。しかしながら癌の血管新生には多数の因子が作用しています。 癌に対しては多数の血管新生因子に有効なサリドマイドの使用の方が有効かつ安全と考えます。もう少し安全性が確立するまで使用を差し控えた方がよいのではないかと思います。

■ アバスチンの危険性
1)卵巣癌患者の臨床試験で11%に小腸大腸穿孔が起こり、卵巣癌に対する臨床試験は中止された。(2005年9月23日)
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2)術後大腸癌化学療法の臨床試験の患者募集が延期されました。臨床試験中、被験者に突然死がみられたためです。(2006年2月13日)more...